社長の視点

1. 業界の展望と課題

私はこの仕事がなくなることはないと考えています。建物を建てる以上、必ず地質調査は必要だからです。 ただし問題は、業界全体で人材が不足していること。昔はゼネコンの下請けとして、職人の勘と経験でやってきました。しかし、その技術は属人的で、子が継がなければそこで終わってしまう。だからこそ、会社という組織で技術を残し、継承していくことが不可欠です。扇伸地質は「職人の感覚を技術体系に昇華させる」ことを大きな使命として取り組んでいます。

2. 技術への哲学

ドリルで穴を掘るだけなら誰でもできます。けれど大事なのは「掘った孔を崩さず残す」ことです。 砂、粘土、礫が入り交じる現場では、水や薬液の加減を誤れば一瞬で孔が潰れてしまう。だから私は「孔を守る技術」こそが調査の本質だと思っています。 現場では刻一刻と条件が変わり、正解はマニュアルに書かれていません。経験と勘、そして科学的知識の両方を駆使して判断を積み重ねる──それが技術者としての誇りです。

3. スピードへのこだわり

私が大切にしているのは「いかに早くお客様に成果を返せるか」です。 建物を解体する前に、室内でボーリング調査をしたこともあります。本来なら更地にしてから取り掛かるのが普通ですが、デベロッパーは早く調査結果を必要とする。そこで排気やスペースの制約を工夫してでもやり切る。 そうした対応力こそが扇伸地質の強みであり、信頼に直結しています。スピードは単なる納期短縮ではなく、次のプロジェクトを進めるための価値なのです。

4. 災害復興での使命

能登半島地震をはじめ、大きな災害の後には必ず我々の仕事が必要になります。 仮設住宅を建てるための調査、地滑りを防ぐための解析、液状化の影響を確認する作業──復興の第一歩は「地盤を知ること」です。 私は、地質調査は社会の縁の下の力持ちだと思っています。目立たなくても、未来の安心を築くために絶対に欠かせない。それがこの仕事の重みであり、使命だと考えています。

5. 人材育成と独立支援

私はよく「エネルギーに満ちた不良が欲しい」と言います(笑)。真っ直ぐで根性がある人なら必ず伸びるからです。 うちでは資格取得費用は全額会社負担。さらに現場長になれば機材やトラックを貸与し、独立を支援します。本人にやる気があれば、その挑戦を後押しする体制を整えています。 なぜなら、技術者がいなくなることが一番怖いからです。独立しても、下請けとして仕事を依頼し合える関係を築ければ、業界全体にとってプラスになる。私はそう信じています。

6. 仕事の面白さ

この仕事の面白さは「二つとして同じ地盤がない」ことです。 ある現場では孔が崩れる、その原因を考え、薬液を調整する。別の現場では掘削深度ごとに土の性質が全く違う。そうした条件を読み解きながら作業を進めるのは、まるでゲームのようで、慣れるほどにハマっていく。 10年も続ければ、土を見ただけで「この先はこうなる」と読めるようになる。経験と知識が積み重なって初めて見える景色があります。 私は、この“土と対話する面白さ”を次の世代にも伝えていきたいと思っています。